【映画レビュー】アウトレイジ【70点】
最もゲスな人間が得をする理不尽社会
・短評
一番汚れ仕事をした人間が報われない現代社会を投射した極道作品
・あらすじ
関東随一の巨大組織「山王会」の会長、関内(北村総一朗)は傘下の池元組が対立組織である村瀬組と繋がっていることを良く思わず本家若頭の加藤(三浦友和)を使い池元(国村準)に村瀬(石橋蓮司)を締めるように命じる。
兄弟分である村瀬との騒動を嫌がった池元は池元組の傘下組織である大友組の大友(ビートたけし)に村瀬を締めるように命じるが……。
・感想
観たことない作品ばっかりじゃん!と思われるかもしれませんが、北野武監督映画は『その男、凶暴につき』と『龍三と七人の子分たち』とアウトレイジシリーズしか観たことがありません。
『その男、凶暴につき』では純度100%のバイオレンスさを、『龍三と七人の子分たち』はコメディとバイオレンスの共存を楽しみ気になっている監督ではあるのですがアウトレイジシリーズには特別な思い入れがあります。
まあ、その特別な思い入れと言うのは大したことじゃないのですがシリーズの2作目である『アウトレイジ ビヨンド』の記事の時に書かせていただきます。(自らハードルを上げる)
シリーズ3作目に当たる『アウトレイジ 最終章』が10月7日より公開されるので復習をしておかなければと思い、今作を数年ぶりに再鑑賞しました。
そもそもは『SPEC』の影響により加瀬亮にハマり、DVDが出次第借りたのが『アウトレイジ』を観るに至った経緯なのですが、今作の俳優たちの豪華さと魅力はとにかく尋常ではありません。
「OUTRAGE(外道)」と言うタイトルや「全員悪人」と言うキャッチコピーからも分かるように登場人物の全員が全員、通常の尺度で考えれば悪人です。
ヤクザは任侠に熱い良心的な人物と言う雰囲気は一切なく一般人を恫喝しますし、警察署でタバコをポイ捨てし叱った刑事の車に投げるなどやりたい放題ではあるのですが、今作に登場するゲスな人間ランキングでは下辺すぎるためむしろ良い人にすら思えます。
ヤクザと言う極道の世界を題材に現代社会を投射し、全員を駒としか考えない関内のゲスさや、上にこびへつらうため悪びれもせず下から採取する池元に対し、上からの命令はどんな命令でも忠実にこなす三次団体の組長大友。
しかし、そんな部下想いで椎名桔平演じる水野からの信頼も厚い大友が上層部の人間の人を人とすら思わない勝手な策略に巻き込まれ、次々と部下が死んでいく流れは最初から最後まで一貫しています。
日本映画やハリウッド大作ににありがちな「勧善懲悪」の流れもなく、また極道映画にありがちな「報われないが任侠は通す」展開もなくただただ正直者が馬鹿を見る展開こそがこの映画の真髄で、
この悲惨な様子を描くために、罪悪感のわきにくい「根っからの悪者」を題材にしたのではないか、とすら思える悲惨さです。
また、北野武監督が「誰がどうやって死ぬかを先に考えて作った」映画なだけあり、映画ファンのなかでは非常に有名である縄とガードレールでの処刑は短いシーンなのですが何度見ても壮絶で慣れません。
と、ここまでネガティブなことばかりを書いているように思えますが、これは全て今作の良さです。
悲惨で壮絶な死に方をする映画だからこそ、頭に残り大物俳優たちによる演技合戦も楽しめる。北野武監督作品を深くは知らないのですが、やはり才能のある方なのだとこの映画を観て感じました。