【映画レビュー】散歩する侵略者【80点】
漂う不気味な雰囲気と綺麗なメッセージ性
・短評
好き嫌いはあると思うが、邦画SFの中でもトップクラスの作品
・あらすじ
ジャーナリストの桜井(長谷川博己)はバラバラ殺人事件の調査中に、自身を宇宙人だと名乗る天野(高杉真宙)と出会う。
一方、夫(松田龍平)と仲良くいっていない鳴海(長澤まさみ)は夫が別人のような性格になって戻ってきた事に苛立ちを募らせていたが…。
・感想
邦画ではほとんどSFと言うジャンルは見かけない印象があります。
その理由の多くが予算不足からなのでしょうが、SF映画が好きな自分には少し寂しさを感じていました。
そんな折にこの映画のレビューをTwitterでみかけ、そこそこ好意的な意見が多かったので遅ればせながら劇場へと足を運びました。
邦画の実写SFを観るなんて『Returner』か『リアル鬼ごっこ』以来じゃん、などとこの映画の下調べは全くせずに鑑賞を始めたのですが、
開始数分からこの映画の不気味さは際立ち、すぐに余計な考えは無くなりました。
叫びながら家を出て行こうとする女性が家の中に引きずり込まれ、血だらけの屋内が映される。
返り血を浴びた女子高生がニコニコしながらぎこちない歩き方で田舎道を歩きタイトルが表示される。
あ、これ、SFじゃなくてホラーだ。
と、この時点で少し後悔しましたが松田龍平演じる真治が登場すると、「人間のことを完全に把握できていない宇宙人」と言う間の抜けた展開になり少しホッとします。
しかし、何を考えているのか分からない宇宙人を松田龍平らしさ全開で描かれるため、
一向にこの宇宙人が良いものなのか悪いものなのか判断がつかず更に不気味さは募っていきます。
一方で、ジャーナリストの桜井が出会う天野は真治とは対照的に人間らしい話し方で少し安心するものの、
こちらは人間を侵略する明確な意思を持ちそのためなら何でもすると言う恐怖感をチラつかせます。
あ、やっぱりこれホラーだ。
家に帰り調べて観ると、今作を監督したのは数々のホラー映画を監修してきた黒沢清であると分かりなるほど…と思わず納得してしまいました。
不気味さと間の抜けたシーンを繰り返すことで頭を揺さぶり、
一方で、人間と宇宙人と言う全く異なる二つの種族の中で芽生える奇妙な関係など『ヒドゥン』のようなオーソドックスな宇宙人ものの定石も辿り、宇宙人SFとしての完成度はかなりのものでした。
俳優たちの演技も良く松田龍平、長澤まさみ、長谷川博己あたりは彼らの最も得意とするような方向性の演技で観ていて安心できます。
邦画の実写SFはほとんど見かけない中、このような高品質のSF映画を観ることが出来て嬉しかったです。